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愛に生きるか、理想を貫くか ー幕末の男・龍馬のもしもー
2025.07.15坂本龍馬―幕末という激 動の時代に、果てない理想を追い続けた男。彼がもし、妻・お龍ではない女性と“禁断の愛”に落ちていたら? 本記事は、史実に基づいた人物像を損なうことなく、もう一つの可能性としての物語を丁寧に描いていきます。理想に生きる龍馬が、逃れられない運命の中で一瞬のぬくもりに心を奪われる。その恋は安らぎであり、同時に大義を揺るがすものでもありました。愛する人との未来か、日本の未来か―使命と感情のはざまで、彼が選んだ道とは。
現代を生きる私たちもまた、理想と感情がぶつかる瞬間を経験します。自分自身の人生に重ねて「もし自分だったら、どちらを選ぶのか?」と問いてみましょう。
理想を生きた男・坂本龍馬という存在
幕末の志士・坂本龍馬は、土佐藩出身の脱藩浪人でありながら「薩長同盟」や「大政奉還」の契機を作り、わずか33年の生涯で日本を大きく変えた英雄として知られています。維新に向けた奔走の中で何度も暗殺の危機に晒されましたが、その傍らには常に妻のお龍(楢崎龍)の存在がありました。1866年の寺田屋事件では入浴中だったお龍が咄嗟の機転で龍馬に迫る暗殺の襲撃を知らせ、龍馬は負傷しつつも辛くも難を逃れます。その傷を癒やすために二人で鹿児島の温泉巡りへ赴いた旅は、日本初の新婚旅行とも言われるようになりました。命の恩人でもあるお龍と共に歩んだ坂本龍馬は、理想の実現に家庭の支えが不可欠であることを身をもって知る人物でした。
しかしもし、そんな坂本龍馬がその最愛の妻以外の女性と婚外の恋に落ちてしまったとしたら――?どのような歴史を辿っていたのでしょうか。歴史には存在しない「もう一つの龍馬の物語」を史実の彼の人柄に沿いながら、理想に生きる男が直面するかもしれない葛藤も含め想像してみましょう。
もしも龍馬が、禁断の愛に揺れたとしたら
秋の京都。倒幕運動が佳境に入り、各藩との調整に東奔西走していた龍馬は、幾度目かの暗殺未遂を辛うじて切り抜けた疲労もあって、とある町家に身を潜め静養していました。お龍は危険の及ばぬよう長州・下関に匿われており、夫婦はしばらく離れ離れの状態です。薄暗い油灯の明かりの下、龍馬は一人床に就いてもなかなか眠れずにいました。国家の行方を案じる理想家とはいえ、命を狙われ仲間の死と隣り合わせの日々が心に重くのしかかっていたのです。そんな孤独と不安を抱える龍馬の前に、一人の女性が現れます。
彼女は隠れ家となった家の女主人の姪で、江戸から避難してきていた若い未亡人でした。武家の娘だった彼女は時勢に明るく、龍馬の名は以前から知っていたと言います。ある夜、更けまで文書をしたためる龍馬に茶を差し入れてくれたことをきっかけに、二人は言葉を交わすようになりました。最初は他愛ない世間話でしたが、龍馬が理想とする新国家のビジョンを語ると、彼女は真剣に耳を傾け、「まるで夢のようなお話ですね。でも、きっと叶いますわ」と微笑みました。志を笑うどころか純粋に信じてくれたその笑顔に、龍馬の胸はふっと暖かくなります。気がつけば龍馬は、妻には書簡でも詳しく伝えていなかった胸の内を、その女性に語り始めていました。
狭い座敷で膝を交わし、小声で未来への思いを語り合う二人。彼女は「私は何の力にもなれませんが…お話を聞くことしかできませんが…」と申し訳なさそうにしながらも、龍馬に寄り添います。龍馬は「いや、それだけで充分ぜよ」と土佐訛りまじりに笑い、彼女の手をそっと握りました。その手の温もりに触れた瞬間、自分の中に抑え難い感情が芽生えていることに龍馬は気づきます。妻・お龍への後ろめたさを感じつつも、久しく味わっていなかった心安らぐ時間に、龍馬の心は次第に揺れていきました。
果てない理想と、一夜の情熱のはざまで
翌朝、龍馬は浅い眠りから目覚めると、自分の中に去来する罪悪感と幸福感の狭間で戸惑いました。昨夜、彼女と交わした言葉やぬくもりが頭から離れないのです。「いかんぜよ…お龍に顔向けできん」という思いがまず浮かびます。命の恩人であり、自分の夢を支えてくれているお龍を裏切るような振る舞いをしている――その事実に心が痛みました。しかし一方で、「今だけは安らぎが欲しい」という弱い囁きが聞こえる自分もいるのです。理想に突き進む自分を常に奮い立たせてきた龍馬でしたが、その原動力であるはずの志が、この時ばかりは重荷にも感じられました。
理想と感情の板挟みは日を追うごとに深刻になっていきます。京都の街では情勢が刻一刻と変化し、討幕の計画も大詰めを迎えていました。仲間たちからは次の密談や交渉へと呼ばれ、龍馬自身も新政府の青写真をまとめ上げようと必死でした。それでもふと孤独を感じる夜になると、あの彼女と言葉を交わしたひとときが恋しくなります。短い逢瀬を重ねるほどに、龍馬は自問せずにはいられませんでした。「自分は何をしゆうがぜよ?日本の未来言う前に、大事なお龍を悲しませるがか?」と。
彼女もまた苦悩していました。最初から龍馬に妻がいることは察しており、いけない関係だと分かっていながらも心を止ることができなかった自分を責めています。そして同時に、愛する人の運命が常に死と隣り合わせであることに耐えられず、ある晩ついに涙ながらに龍馬に懇願しました。「どうか、生きて…。お願いです、こんな危険なことはもうやめて。遠くに逃げましょう?私も一緒にいますから」。突然の言葉に、龍馬は息を呑みます。胸の内で封じていた感情が一気に溢れそうになるのを感じながらも、「いかん…それはできんがじゃ」と震える声で返すのが精一杯でした。
彼女の提案は甘く魅力的な誘惑でした。もしこのまま使命から降りて、遠い地で名を変え彼女とひっそり暮らせば、暗殺の恐怖に怯える日々からも解放されるかもしれない。愛する女性と穏やかな人生を送る方が、人として幸せではないのか――。龍馬の脳裏に一瞬そんな未来がよぎります。しかし同時に、これまで命がけで走り続けてきた志士としての自分を思い出します。武士の身分も捨て、幾多の同志と誓い合って成し遂げようとしている日本の理想を、自分一人の幸せのために諦めることができるのか?「いや、それでは今まで散っていった仲間に申し訳が立たん…!」龍馬は胸の内で必死に理性を取り戻そうとしました。
国家か、禁断の恋か―揺れる選択
夜が明ければ、また新たな歴史の歯車が動き出す――その目前にして、龍馬は人生最大の岐路に立たされました。理想を貫けば愛する人を失い、愛に溺れれば築き上げた理想を失うことになる。この二者択一から逃れる術はありません。布団の上で刀を横に、一睡もできぬまま迎えた明け方、龍馬は静かに決意を固めました。
彼は彼女に宛てて手紙をしたためました。震える筆跡で綴られた言葉は短く、しかし彼の真心が滲んでいます。「すまん」という書き出しから始まる文には、自分を支えてくれた彼女への深い感謝、「あなたとの時間は忘れません」という正直な想いが記されていました。最後は「どうか達者で生きてつかあさい」と締めくくられていました。龍馬はしたためた手紙をそっと彼女の部屋の障子の下から差し入れると、一度だけ振り返り、静かにその家を去りました。戸外は朝もやに煙る京都の町並み。空は次第に白み始め、遠く鴨川の流れる音が聞こえてきます。龍馬はまっすぐに前を見据え、再び志士として歩み始めました。その目には迷いはありません。しかし頬を伝う一筋の涙が、彼の胸の痛みを物語っていました。
彼女が目を覚まし、龍馬の書置きを発見したのはその少し後でした。震える指でそれを読み終えた彼女は声を押し殺しながら泣き崩れました。ですが同時に、彼の選んだ道を誰よりも理解できるのも自分である、と心のどこかで感じてもいました。「龍馬さん…どうか、ご無事で」――そう呟いて祈るように手を合わせた彼女は、静かに手紙を懐にしまい込むのでした。
人は何を選ぶべきなのか―その問いの答えは…
それから間もなく、坂本龍馬は歴史の表舞台でその使命を全うします。慶応3年11月、京都の近江屋で何者かに暗殺され、彼の生涯は幕を閉じました。享年33、本当に短い人生でした。もし彼女との逃避行を選んでいれば、暗殺という最期も避けられ、もっと長く生きられたかもしれません。しかし、龍馬は己の理想を捨てることなく突き進みました。それはすなわち、愛する人との安穏な未来という感情を断ち切る選択でもありました。結果として歴史は動き、日本は新たな時代へと歩み出します。一人の人間としての幸せと、志士としての使命。そのどちらを優先すべきか、正解は今も分かりません。
今回描いた物語は架空のものですが、龍馬のような偉人でなくとも、私たちの人生にも大小さまざまな場面で「理想と感情」が衝突する瞬間があります。仕事と信念、家庭と愛情とのバランスに悩むこともあるでしょう。そんなとき、多くの場合は龍馬のように何かを諦め、何かを選び取らねば前に進めません。理想と感情は、時に対立し、それでも選ばねばならない──坂本龍馬がもしもう一つの愛を抱えることになっていたら味わったであろう苦悩は、婚外関係やセカンドパートナー、ママ友、パパ友などの多様な関係性が認められている現代を生きていく私たちにも通じるテーマではないでしょうか。最後に読者の皆様に問います。
果たしてあなたなら、龍馬と同じような状況に立たされた時、果てない理想の追求と静かな幸福な未来を得る禁断の愛という選択を前にして、どちらを選ぶのでしょうか?
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