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合意的非一夫一婦制(CNM)が拓く多愛家族の可能性:子育てにおける6つの利点と課題
2025.07.15本研究は、カナダ在住の「合意的非一夫一婦制(CNM)」を実践する親34名への半構造化インタビューを通じ、CNMが子育てに与える利点と課題を探究しました。テーマ分析の結果、以下の六つの主要項目が浮かび上がりました:
- 社会的受容と法的保護
- 子どもへのカミングアウト
- 時間管理
- 家族義務と個人ニーズの調整
- “村”の力を借りた子育て
- 価値観の教育
これらの知見は、CNMをめぐるモノノルマティビティや法制度の制約、親のセルフケア、複数大人による子育ての強み、子どもへの性と多様性教育など、多愛家族の現実を幅広く照らし、公共政策や教育現場への応用可能性を示唆します。
はじめに
「家族」という言葉を聞くと、多くの人は「父と母、子ども」という三人家族を思い浮かべます。しかし、近年そのイメージは大きく揺らぎつつあります。合意的非一夫一婦制(CNM)、いわゆるポリアモリーを実践する家庭では、複数の大人が協力し合いながら子どもを育てる新たな家族モデルが生まれています。本稿では、カナダ在住のCNM実践者34名への半構造化インタビューをもとに、CNM家族が直面する現実的な課題と、その一方で享受できる6つの大きな利点を、実際の声とともにたっぷりご紹介します。
社会的受容と法的保護の狭間で
CNM家族がまず直面するのは世間の偏見です。「子どもが学校の運動会に来ると、『お宅はグループセックスはないんですよね?』と嫌味半分に聞かれた」と語る母親の言葉には、痛切な孤立感がにじんでいました。こうした無理解は、親としての自信を揺るがし、時に子どもにまで不安を伝染させます。
さらに、法的な側面でも課題は山積みです。多くの国では「法的に認められる親は二名まで」と定められており、第三者パートナーが緊急時の判断や保護者としての権利を持てないケースが散見されます。しかし一方で、「同性婚が認められた過程を振り返れば、多親家族もいずれ法的保護を勝ち取るはずだ」という楽観的な見通しもあります。実際にある参加者は「数十年前には、同性愛自体が違法だった。今や結婚できる社会になったのだから、時間は味方だ」と強い希望を語りました。
厚い制度の壁を突破するには、自治体や教育機関への情報啓発が欠かせません。多親家族の実態を伝え、福祉支援や法律改正を後押しする動きが、各地で芽吹き始めています。
子どもへの“カミングアウト”いつ、どのように?
CNM家族が最も頭を悩ませるのが、子どもへの説明タイミングと方法です。幼い頃から家に出入りする大人の多さを「家族の豊かさ」として自然に受け入れさせる親がいる一方、「抽象的な多様性概念を先に学ばせ、詳細は年齢に応じて段階的に説明する」という慎重派もいます。
ある親はこう話します。「娘が4歳のころ、『今日はママとパパのほかに、大好きなサラおばさんが来るよ』とだけ伝えました。言葉をシンプルにすることで、子どもの不安を最小限にできたと思います」。反対に、小学生高学年まで「家族は人それぞれ違う」との一般論を先に理解させ、その後にCNMの仕組みを詳しく解説する方法を選ぶ家庭もありました。
しかし、必ずしもスムーズに進むわけではありません。いじめリスクを考慮して、説明のタイミングを見極める親もいます。離婚後の親権争いで「ネガティブ材料にされないよう、裁判中はパートナー情報を伏せた」という事例もあり、子どもの安心と法的リスク管理を天秤にかける難しさが浮き彫りになっています。
時間管理──見えない調整力が家族を支える
複数のパートナー、仕事、学校行事…それらを一つにまとめるには、緻密なスケジュール調整が欠かせません。多くのCNM家族は、家族共有カレンダーや色分けされたホワイトボードで「誰がいつ家にいるか」を可視化し、子ども自身にも「今日はお兄ちゃんの家に行くんだね」と楽しみにさせる工夫を凝らしています。
それでも崩れることはあります。急な用事や体調不良が重なれば、代替プランを迅速に伝えるコミュニケーション力が求められます。ある父親は「子どもが突然『Aさん今日は来ないの?』と不安そうに尋ねる。そんなとき、代わりに来てくれるBさんが『大丈夫、一緒に遊ぼうね』と優しく声をかけてくれる安心感は大きい」と言います。
ただ注意したいのは、スケジュールを詰め込みすぎないこと。参加者からは「『何もしない日』を意図的に作ることで、家族全員がリラックスできる」との声が多く、余白のある時間こそが調整力を支える鍵となるようです。
家族義務と個人ニーズのバランス親という役割の再定義
伝統的には、親は家族のニーズを最優先に考える存在とされてきました。しかしCNM家族の親たちは、自分自身の充足が子どものためにもなると語ります。「非同居パートナーと過ごす数時間は、親として疲れた心と体をリセットする休息時間。戻ってきたときには、子どもに対してもより穏やかな気持ちで接することができる」。
さらに、複数のパートナーによる性愛的充足の分散は、単一関係でよく生じる性的不一致やコミュニケーション不足を緩和し、結果として家庭内の緊張を和らげる効果も報告されています。もちろん、「子どもを置いていく罪悪感」との葛藤は避けられませんが、親同士の対話と合意形成を通じて、罪悪感を言語化し乗り越えるプロセスそのものが、子どもにとっても示唆的な学びの場となっています。
“村”の教育力多彩な大人ネットワークが育む学びと安心感
CNM家族最大の強みは、まさに「村」のような存在感です。音楽好きなパートナーがピアノを教え、科学好きなパートナーが実験ワークショップを開き…子どもは多様な大人から直接学びを得ることができます。「週末のサイエンスセッションがきっかけで、娘の理科への興味が一気に深まった」という母親の声は印象的です。
また、子どもは誰にでも相談できる安心感を獲得します。配偶者やパートナーの目が行き届きやすく、感情的な変化にもいち早く気づける環境は、自己開示や共感力を自然に育む土壌となります。もちろん、新たな大人が加わるたびに嫉妬や不安が生じますが、境界設定と対話を重ねることでゆっくりと信頼を築いていくプロセス自体が、子どもの社会性を高める機会となるのです。
価値観を伝える日常合意のプロセスがもたらす学び
CNM家族では、日常的に「合意」という言葉が飛び交います。食事のメニューからお出かけプランまで、すべてを話し合いで決めるプロセスは、子どもにとって何よりの学びです。「嫌だと思ったらいつでもNOと言っていいよ」というフレーズは、性教育や人権教育を超えて、自己決定権と他者尊重の精神を自然と身につけさせます。ある参加者は「娘には『自分の体と心は自分が一番大事にするもの』と繰り返し伝えている」と語り、家庭内での合意形成が学校や社会でのいじめ防止につながる可能性にも期待を寄せています。
おわりに家族の未来図をともに描く
ここまで見てきたように、合意的非一夫一婦制は、偏見や制度の壁という現実的ハードルを抱えながらも、多様な大人ネットワークによる子育ての豊かさを実証しています。今後は公的制度の再設計や教育現場への導入など、社会全体で多愛家族を支える仕組みづくりが求められます。
——あなたは、どのような家族の未来を想像しますか?多愛家族の可能性と課題に触れた今、自らの家族像を再考するヒントが見つかるはずです。

Rina



